今がその時 "服飾2.0"

~川上から川下に精通する業界人が紐解くアパレル産業事情~

"服と心の寺子屋"

~紡ぐを育むその先に~
まずはじめに御挨拶
素材と縫製の基礎講座
業界の今とこれから
心の羅針盤

【書籍解説②】現役商社マンが語る!!「鎌倉シャツ 魂のものづくり~第1章~」

 

こんにちは。

ふく たびおです。

 

 

前回に引き続き「鎌倉シャツ 魂のものづくり」の解説を行っていきます。

今回は第1章~なぜ、このシャツを4,900円で作れるのか~です。

 

まず、前提として上記の価格は本書の出版以降、少しずつ改定されています。

今回は"これ程の上質な商品をお値打ちな価格で"という意味合いとして捉えて下さい。

 

 

では、同ブランドは"どんな"上質な商品を"なぜ"お値打ちな価格で販売出来るのかを見ていきましょう。

 

 

 

 

 

 

 

f:id:Kim-Fukutabi:20200424202010j:plain

 

 

 

1、業界人も認める上質・こだわり3つのポイント

 

 

上質あるいは品質が高いとアパレル業界の人間からも一目置かれる同ブランドのシャツは、具体的にどの点において優れているのでしょうか。

主に以下の3つだと私は思います。

 

 

①綿100% 100番双手糸に代表するこだわり素材

 

附属のほとんどないシャツの生命線と言える表生地、同ブランドでは細番手の素材を主に使用しています。一般的に細番手の素材の方が柔らかく光沢があります。その分、素材コストも高くなります

 

例えば、夏に履くウールのスラックス(おおよそ80番手クラス)と休日に履くチノパン(おおよそ20~30番手)の光沢/風合い/値段の差を想像してもらえると分かりやすいかもしれません。

 

「A:100番手双糸(100番手の糸2本の撚り合い)=B:50番手単糸クラス」と言えます。

素材コストが高いのがAだということは皆さん想像出来るかと思います。

ではなぜ高くなるのでしょうか?

 

一言で表すとAの方がより多くの材料を使用しているからです。

 

細番手の方が光沢や柔らかさについては優秀ですが、細い糸だけに耐久性に劣る部分があります。その耐久綿を補う為に2本の糸を撚り合わせて双糸にします。

より細い糸をより多く使用している素材の方が、滑らかな風合いや見え方になります。

※番手=糸の太さ (50番手>100番手)

 

生地や糸って本当に奥深いです。今後、少しずつ紹介していきたいと思っています。

番手や単糸/双糸についても後日改めて詳しく解説させて頂きます。

 

 

②天然の貝ボタンを使用

 

鎌倉シャツの価格帯のシャツであればプラスチック製の貝調ボタンを使用しているのが一般的だが、鎌倉シャツ天然の貝ボタンを使用している。

 

貝ボタンの特徴として代表的なのはその光沢感でしょう。

プラスチック製の貝調ボタンと比べ、豊かな光沢感があります。

また、天然素材が故にその光沢感が様々で不均一なことも味の1つだと思います。

 

そんな天然の貝ボタンですが、プラスチック製の貝調ボタンと比べて1個あたり¥15~¥20程も高いのです。

 

シャツのボタンがおおよそ10~12個なので、1着あたり¥200程度の差が出ます。

たっと¥200と思う方が多いかもしれません、しかし附属の少ないシャツにおいてこの差はかなり大きいです。

 

 

③フラシ芯の使用

 

ドレスシャツは一般的に襟/前立て/カフス(袖)に芯地を使用しています。

芯地は製品にハリを出し型崩れを防ぐことや、生地を固定して縫製しやすくすることを目的とし、表生地と縫い合わせる方法で使用されます。(そうでない場合もあります)

 

シャツに使う芯地には接着芯とフラシ芯(非接着)に大別されますが、鎌倉シャツでは後者を採用しています。

その理由は保形成だけでなく、柔らかによる着心地の良さへの追求にあります。

 

接着芯は言わば糊で表生地に芯地を貼り付けて使用するものです。

当然、糊がついた表生地はかたくなりますよね?

一方でフラシ芯は接着しない為、接着芯に比べて柔らかさが維持されます。

また、そのフラシ芯もハリがあり、良いものを使っています。

私は同ブランドのシャツの袖まくりをした時の返りの良さと柔らかさのバランスが大好きです。本当に絶妙なバランスだと思います。

いくら保形成が必要と言っても襟や袖がガチガチにかたいと嫌ですよね。

 

ただし、縫製面のことを考えると接着芯の方が難易度は低いです。

糊で貼り付けたものを縫い合わせる方が簡単なのは想像に難くないことでしょう。

 

 

また、"品質統一会議"という縫製工場や鎌倉シャツの役員~スタッフが出席する会議では、品質の統一と工向上を目指し各工場のノウハウの開示までもが行われているというから驚きです。

 

普通、他社より優位性があるノウハウは隠したいのが本音でしょう。

同社のものづくりに対する熱意がその壁を打ち崩した結果だと思います。

 

 

 

2、上質な商品をお値打ちな価格で

 

 

では、そのような上質な商品を鎌倉シャツはいったいどのようにしてお値打ちな価格での販売が可能になっているのだろうか。

 

それは、高い原価率とSPAによるものづくりによるものだ。

同ブランドのシャツの原価率はおおよそ59%とされている。

以前、原価率の高さを紹介したTOKYO BASEのそれを上回る高さだ。

 

「過去記事」fuku-to-fukutabi.hatenablog.com

 

 

 

それに加え、企画/生産~販売までを1本化したSPA体制によりお値打ち価格を実現している。

 

例えば、以下の2社があったとする。

A社:原価率40% / 商社経由 製品仕入

B社:原価率60% /SPA

 

 

仮に¥1000/mの同じ生地を使用し、同じ工場で縫製した場合の販売価格はそれぞれ以下の通りとなる。(商社マージンを20%、附属代¥500とする)

 

「A社の場合」

{¥1000/m×2m(仮要尺)+¥1000+¥500}=¥3,500×1.2(商社マージン)=¥4,200

⇒販売可能価格:¥10,500~

 

「B社の場合」

{¥1000/m×2m(仮要尺)+¥1000+¥500}=¥3,500

⇒販売可能価格:¥5,833~

 

 

A社とB社が同じ生地と工場を使った場合、これだけの差が出る事になる。

忘れてはいけないのは、これはあくまで単純な試算であり、直接生地/附属の仕入れを行う中で、原価低減の方法が身に付いていく可能性が高いのも圧倒的にB社である。

 

その差こそが、鎌倉シャツが上品な商品をお値打ちな価格で販売出来る理由だ。

※一方、SPAにおいては企画/生産~販売までを行う以上、それだけのスタッフが必要になることはデメリットと言えるかもしれない。

 

 

長くなりましたが、今回は以上です。

個人的には生地が服の中でも好きな要素なので、その話メインになってしまいそうでした・・・。ごめんなさい、あれでも短くしたんです・・・。

 

 

次回は第2章「100%リスクを取る」です。

 

 

にほんブログ村 ファッションブログへ
にほんブログ村